トライアスロンやマラソンなど、持久系のレースに欠かせない「補給食」。
特にトライアスロンではミドルでも数時間、アイアンマンレースになればほとんどの人は10時間以上の長い時間、動き続けることになります。
体を動かすには糖質と脂肪が主に使われますが、消費エネルギーが膨大になってくると、事前に蓄えた分だけでは賄えなくなります。
そこで必要になるのが補給食です。
一方、3時間足らずで終わるショートであっても、スタート前のエネルギー補給や、後半の頑張りに備えて補給食を利用する方も多いです。
ただこの補給食ですが、舐めてかかると失敗します。
そしてその失敗は、レースにおいてかなり致命的な事態に繋がることもあります。
- エネルギーが枯渇して動けなくなる
- 内臓系トラブルに見舞われてリタイアを余儀なくされる
補給食で失敗しないためには、基本的な知識をしっかり押さえること、そして練習と実践で経験を積むこと、この2つが重要です。
この記事では、
- 補給食に求めるもの
- 補給食の選び方
- レースでの補給の注意点
という観点から、レースに出るなら誰もが知っておくべき補給食の基本を整理しておきたいと思います。
そもそも、補給食に求められる役割とは?
あなたは何を求めて補給食を取り入れようとしていますか?
まず補給食に求められる役割を見ていきましょう。
大きく分けて以下の4つが挙げられます。
エネルギーの補給
体を動かし続けることで消費されるカロリーは、距離にほぼ比例して増えます。
また消費カロリーは体重によって変わりますので、以下の数値はざっくりした目安と考えてください。
一定量は備蓄した糖質(グリコーゲン)や脂肪で賄います。
糖質と脂肪の使用比率は運動強度によって異なり、激しい運動をすれば糖質の割合が増え、有酸素運動では脂肪の割合が増えます。
体内に備蓄できる糖質(グリコーゲン)の量は1300~2000kcal程度なので、単純に見積もると、スタンダード(オリンピックディスタンス)くらいであればだいたい賄えてしまいそうな計算になります。
ただ実際には、ランパートで空腹を感じたり、疲れやエネルギー不足を感じる事がありませんか?
私はあります。なので、個人的にはスタンダードのレースでも、トランジッションやレース着のバックポケットに補給ジェルなどを1,2個ずつしのばせています。
スタンダードより長い距離のレース、ましてアイアンマンなどになると、体内のエネルギーだけでは絶対的に足りません。
足りない分は外から補給する以外ないので、補給食によるエネルギー(カロリー)の補充は必要不可欠なのです。
空腹感の解消
空腹感とエネルギーの不足は必ずしも一致するわけではありませんが、レース後半で感じる空腹感は本当につらいものがあります。
例えば10時間という時間は、普通に生活をしていても2回から3回の食事が必要になる時間です。
当然、腹は減りますよね?
空腹感を解消して、さらに腹持ちのいいものが求められるので、競技時間の長いレースでは固形の補給食も取ります。
走りながらの固形物はちょっときついものがありますが、トランジッションやバイク中には固形の補給食を取っている人が多く見られます。
疲労の回復
疲労の回復というと、練習後やレース後のことだと思われるかもしれませんが、長時間動き続けるためには、運動しながら同時に回復も図っていく必要があります。
レースが進むにつれて疲労が蓄積していくのは当然のことですが、補給によってそれを緩和していくことは可能です。
運動中に取りやすいように作られたアミノ酸系の補給食がその代表格ですね。
リフレッシュ、刺激
レース後半になってくると、暑さや糖の不足などもあり、意識がもうろうとしたり集中力が途切れたりします。
これはドイツのアイアンマンに出場した時のことです。
バイクのエイドで、ボトルに入った水やスポーツドリンクを提供してくれるのですが、それらに交じって薄めたコーラが入ったボトルもありました。
それまで運動中にコーラを飲むという概念が一切なかったので、なぜその時コーラのボトルを受け取ったのかは分かりません。
バイクコースの4分の3くらいの地点で、足には疲労がたまり、スピードもすっかりでなくなり、集中力もなくなっていました。
ところがそのコーラを飲んだあたりから、やけに意識が冴え、足にも力が戻ってきたのです。
後で考えると、それはコーラに含まれるカフェインのせいだったのだと思います。
補給食のジェルなどには、カフェインが入っているものが多くあります。
エネルギーの補給だけではなく、競走馬に鞭を入れるように、後半の疲弊した脳と筋肉に刺激を入れる効果も補給食にはあるのです。
レースに携行する補給食はこうやって選ぶ
補給食の役割を整理したところで、では実際レースで使う補給食はどうやって選ぶべきでしょうか?
補給食選びのポイントは、以下の3つです。
必要とする成分が必要なだけ入っているか?
エネルギーが欲しいのか、アミノ酸が欲しいのか、足のつりを防ぐためにマグネシウムが欲しいのか。
当然ですが、目的に合った成分が入っていないのではあまり意味がある補給とは言えませんね。
また成分だけでなく、それがどれくらいの量含まれているかも確認しましょう。
例えばエネルギー量であれば、どの製品にもカロリー表示があります。
180kcalのジェルを30分ごとに摂取したら1時間で360kcal、4時間続けると1440kcalほどになります。
こうして必要なエネルギー量と、摂取できるカロリーの均衡がだいたい取れるように見積もりましょう。
ただし実際には、必ずしも机上の計算通りにいくとは限らないので、そこは練習や本番で経験値を上げていくしかありません。
なんだかんだ言って味
なんだかんだ言っても食べ物ですから、味は重要です。
単純な話、苦手なものだと、何となく気も進まないし、若干気も滅入ります。
逆に、美味しければテンションも上がりますし、体も喜びますよね。
自分の体に合っているか?
たかが補給食と侮ってはいけません。
だって一度体に入れてしまったら、それはもうあなたの体の一部なのです。
レース中にしてもレース前にしても、緊張や疲労などで消化器系の状態も普段とは違っています。
元気な胃であれば何ともないものでも、弱った状態だと体が拒否することもあります。
- 胃が受け付けず嘔吐してしまう
- 胃が痛くなる
- 利尿作用で強い尿意を催す
こういったことを避けるために、自分の体に合った補給食をあらかじめ把握して用意していく必要があります。
レース中の補給、注意点は?
では実際補給食を導入するにあたって、どんなことに注意が必要でしょうか?
以下、絶対に守っておきたい注意点を3つ挙げます。
必ず事前に試す
これは基本中の基本ですね。
前述したように、味や体との相性が大事なので、あらかじめ練習中などに試しておくようにしましょう。
よく言われることですが、レース会場のブースで売っているものが良さそうだからと言って、初めて食べるものをいきなり試すのはおすすめできません。
そこらのスポーツショップには売っていないようなものが売っていたりするので、テンションが上がって購入してしまうのは分かります。
試しに買って練習の時に食して見て、良さそうだったら次のレースで使うようにしましょう。
小分けにして摂取する
これも非常に大切なので必ず実践していただきたいことです。
糖質たっぷりの補給食を一気に体内に取り込むと、急激に血糖値が上がってしまいます。
急上昇した後は急降下するので、そこで空腹感が発生したり、最悪ハンガーノックで動けなくなってしまう、ということもあります。
また一度に大量の補給をすると、胃や腸にたまって苦しくなります。
特にランでは体の動きが激しくなるので、腹痛など不調の原因になってしまいます。
ジェルなどであれば30分に1個とか、固形なら1時間に1個とか、細かく時間で区切って摂取するようにしましょう。
取り過ぎは不足と同じくらい危険
冒頭の方で、エネルギーとなるのは糖質と脂肪で、その割合は運動強度で決まる、と書きました。
割合を決めるもう一つの要素として、インシュリンの存在があります。
摂取した糖が血液に取り込まれて血糖値が上がると、すい臓からインシュリンが分泌されます。
インシュリンは糖をエネルギーとして利用する働きのあるホルモンですが、同時に脂肪の利用を抑えるという性質もあります。
つまり糖を過剰に摂取すると、糖の使用割合が増し、それによってもっと糖分が必要になってしまいます。
取れば取るほどインシュリンが分泌し、悪循環に陥ってしまいます。
従って、糖分を過剰に摂取しない事と、前述した小分けにして取るということ、このどちらも重要になります。
色々な人の例を見ると、補給のインターバルは20分から1時間、1回の摂取量100~200kcal程度と言ったところでしょうか。
人によってだいぶ差があるので、自分にちょうどいい組み合わせは最終的に自分で見つけるしかありません。
補給食で失敗しないために-まとめ
いかがでしたか?
要点だけまとめると、
- 補給食の成分と量が、摂取目的と合っていることを確認する
- 補給食は必ず事前に試す
- 補給は一度にたくさん取らず、こまめに行う
- 糖分を取りすぎないよう、自分に合った量を見極める
と言ったところでしょうか。
レースで力を発揮するには、もちろん補給だけでなく、レース前数日間の食生活にも注意が必要です。
事前の食事のとり方などはこちらの記事にまとめました。
オリンピックディスタンスでは補給は不要という考えもありますが、上記の注意点はレース直前の補給についても同じことが言えます。
それに、いざというとこのためにトランジッションに1つ2つ置いておくと安心ですね。
まだいろいろと書きたいこともあったのですが、思いのほか記事が長くなってしまいました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。