大人にもヘルメットの着用が努力義務化されるかもしれない、なんて話を聞いたことありますか?
道路交通法では現在、13歳未満が自転車に乗るときにのみヘルメット着用の努力義務が定められています。それを大人にも適用しようという動きがあるようですが、通勤通学くらいではなかなかヘルメットを着けようという人は少ないですよね。
一方ロードバイクなどをはじめとしたスポーツサイクリングでは話がまったく違います。
ヘルメットの着用は常識であり、ほとんど誰もが着けています。特に下りでは原付バイクのようなスピードで走行するので、ヘルメットの必要性については疑う余地がありません。
そんなロードバイク用のヘルメットを見ていると、製品名に「MIPS」と書かれたものが多いことに気づくでしょう。しかも1つのメーカーだけでなく、別のメーカーの製品名にもMIPSが入っています。
「MIPSっていったい何?」と気になった人のために、この記事ではMIPSについて詳しく解説します。
MIPSモデルは非MIPSモデルよりも価格が高くなっています。
理由も分からず高いお金を払うことはできませんよね。MIPSについて詳しく知って、納得した上でヘルメットを購入するようにしましょう。
MIPSとは多くのヘルメットに採用されている安全システムのこと
出典:MIPS
MIPSとは、ヘルメットメーカーのモデル名ではなく、ヘルメットの安全システムのことです。
「Multi-directional Impact Protection System」の略で、和訳すると「多方向衝撃保護システム」となります。この名前からも分かる通り、MIPSとはヘルメットにいろいろな方向からかかる衝撃から頭を守るための安全システムです。
どのような安全システムかというと、ヘルメット内側のパッドの下に、LFL(Low Friction Layer)と呼ばれる厚さ1㎜未満の低摩擦層が配置されています。
このLFLは搭載されたヘルメットに合わせてカスタマイズされていて、ヘルメットのフィットシステムに干渉しないように実装されています。
走行時の転倒などによりヘルメットが衝撃を受けると、LFLが任意の方向に10~15㎜動くように設計されています。このLFLの動きによって、あらゆる方向からの衝撃のエネルギーを軽減することができるのです。
MIPSの目的、そして一般的なヘルメット安全性との違い
出典:MIPS
もう少し具体的に、一般的なヘルメットとMIPSの安全性の違いについて触れてみます。
一般的なヘルメット(ここでは業界の安全基準によって認定されたものを想定します)は、落下物のように直線的な衝撃を軽減させることができます。しかし、走行中の自転車や、スノースポーツやモータースポーツ、乗馬など、スポーツ中のアクシデントによる衝撃はあらゆる角度から起こりえます。MIPSはこの回転方向の衝撃に着目しました。
例として、滑りやすい下り坂と高摩擦アスファルトでの転倒について考えてみます。
滑りやすい下り坂で転倒した場合、ヘルメットが地面にぶつかると、そのまま転倒前の進行方向にスライドする可能性が高いです。
一方で高摩擦のアスファルトの場合では全く違います。ヘルメットが地面にぶつかった瞬間、進行方向へ滑るのではなく、突然停止してヘルメット(頭)に回転方向の大きな力が加わります。MIPSはこの回転方向のエネルギーを吸収することを大きな目的としているのです。
この回転エネルギーによって頭とヘルメットの間に蓄積される力は計り知れません。最大10人程度の体重と比較できるほどと言われています。
このような高圧下では、たとえヘルメットのストラップが少し緩めだったとしても、頭とヘルメットとの摩擦によってヘルメットが動きにくくなります。自動車に急ブレーキをかけたときに、タイヤがロックされるような状態を想像するといいかもしれません。
MIPSの低摩擦層(LFL)は、このような大きな高負荷が生じた場合でも10~15㎜の全方向移動が可能となっています。
ヘルメットメーカの製品名にこぞってMIPSと入れるワケ
出典:MIPS
MIPSはスウェーデンの会社で、ヘルメットの安全システムに特化しています。ヘルメット専門メーカーを含む117のブランドがMIPSのシステムを採用しています。
ヘルメットのメーカーは、自分たちの製品にMIPSの安全システムを採用するかどうかを検討します。初期モデルはMIPSを搭載していなくて、途中からMIPSモデルを追加するといったパターンもあります。
採用が決定すると、ヘルメットメーカーとMIPSとでヘルメットのモデルとサイズごとにシステムのカスタマイズ設計が行われ、設計が終わると今度は、衝撃試験を実施するためにすべてのサイズのヘルメットがスウェーデンのテストラボに送られます。
MIPSモデルは割高になるため、メーカーとしては製品名に「MIPS」を入れてそれを売りにします。ただむやみに高いわけじゃないんだよ、と強調しているのですね。
安全性能というのなかなかアピールしにくいものでもあります。ヘルメットメーカーは各社ばらばらの安全テストをしているので、共通の指標がない上に、安全性などというものは実際に事故が起こり、さらにそれらを統計的に見ていかないと良し悪しの比較ができないので、一般のユーザーにはなかなか判断がつきません。
ヘルメットの安全基準、例えば日本では「JCF(日本自転車競技連盟)公認」はだいたいどのメーカも取っていますし、欧州の安全基準とうたわれても消費者には伝わりにくいものです。そこでMIPSという安全システムを搭載している、というのは1つ確固とした安全性能のアピールになります。
そういったわけで、いろんなメーカーのヘルメットの製品名に「MIPS」名称が入ってるのですね。
MIPSは厳格なテストでその高い機能を実証している
出典:MIPS
少しマニアックな話になりますが、MIPSが行っているヘルメットの衝撃テストについて触れます。
通常のヘルメットのテストでは、ヘルメットを垂直に落下させて頭への線形な衝撃エネルギーを測定しています。しかしこのようなテストでは、運動中の転倒などで加わる回転エネルギーには対応していません。
転倒すると頭は何かしらの推進力をもって地面にぶつかるので、地面の表面に応じて多かれ少なかれ頭を回転させる接線力という力が加わります。MIPSの衝撃テストは、加速度計を備えたダミーヘッドにヘルメットを装着し、高速度カメラで撮影して行われます。加速度計のデータと、高速度カメラの映像を解析することにより、次のようなことが分かります。
- MIPSの低摩擦層(LFL)の働きにより、衝撃時の回転力が低下する
- LFLを取り付けると、脳の緊張が大幅に軽減されるように見える
- LFLが動くことにより、頭とヘルメットの間に微小(10〜15 mm)ながら重要な相対運動を生み出す
要約すると、MIPS安全システムがある場合とない場合のヘルメットの違いは、MIPSがあることによって角度のある衝撃でヘルメットが頭に対して10〜15mm回転できるということです。 MIPSを搭載したヘルメットのすべてが、この厳格なテストプロトコルに合格しています。
ロードバイク転倒時などのヘルメットへの回転衝撃によって発生する怪我や障害
では実際、MIPSが着目している回転衝撃によってどのような怪我や、脳への障害が発生するのでしょうか?
ここではその概要だけをざっくり紹介します。
衝撃の大きさや部位によって、怪我や障害につながる要因は複雑なものです。頭に直線的に伝わる衝撃では頭がい骨骨折や挫傷を引き起こすことがある一方、回転運動による衝撃は脳震盪、硬膜下血腫、びまん性軸索損傷などの障害が発生することがあります。
脳震盪
脳震盪という言葉はよく聞かれますが、さまざまな種類の脳損傷を表す一般的な用語です。
頭に衝撃が加わった後の症状を広く定義していて、症状は頭痛、めまい、ひどいときは記憶喪失などがあげられます。発症のメカニズムは多岐にわたり、完全には解明されていません。衝撃時の回転エネルギーを脳震盪の原因と関連付けた研究もあります。
硬膜下血腫
硬膜とは、脳と脊髄を取り囲む不規則な結合組織でできた膜のことです。
硬膜下血腫はこの硬膜内の脳と、頭がい骨との間で起こった出血を指します。このような出血は、頭の急激な回転運動によって引き起こされ、その結果、血液で脳を支えている架橋静脈が過度に伸びます。
びまん性軸索損傷(DAI)
脳の軸索への損傷です。このタイプの傷害は、脳の大きな変形(ひずみ)が原因であり、主に頭の急速な回転運動によって引き起こされること分かっています。
ロードバイクなどの自転車用ヘルメットに搭載されているMIPSについて-まとめ
さて、ロードバイクなどのヘルメットの製品名によく書かれている「MIPS(ミップス)」についての説明をしてきました。いかがだったでしょうか?
ロードバイクなど競技として自転車に乗る場合は当たり前のようにヘルメットを着用しますが、その安全性能にはなかなか目が向けられていません。
MIPSを搭載したヘルメットは、巷の安全基準をクリアするだけでなく、実際の運動中の事故で頭に加わる回転衝撃を軽減させる機能を有していることを意味しています。
ヘルメット選びの一つの基準として、是非頭に留めておいていただければ幸いです。
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