初めてトライアスロンのレースに出場するとき、いろいろと疑問が湧いてくるのが、ウェットスーツ着用に関することではないでしょうか?
サーフィンなどのマリンスポーツをする人には抵抗がないかもしれませんが、そうでない人はウェットスーツなんて他に着る機会がありません。
気軽にそこらで試着できるものでもないし、値段も高いし、そもそもあんな黒光りするゴムの塊を身にまとってまともに泳げるのか、そんなこと風に思ったことありませんか?
- レースではウェットスーツ着なくちゃいけないの?
- ウェットスーツを着るメリット、デメリットは?
- 初心者でも着てすぐに泳げるものなの?
など、レースでのウェットスーツ着用に関して整理してみたいと思います。
トライアスロン大会におけるウェットスーツ着用について
レースでのウェットスーツ着用については、以下の3パターンがあります。
- ウェットスーツ着用義務
- ウェットスーツ着用禁止
- 着ても着なくても良い
これには、水温などの環境によって主催者側で判断する場合も含まれます。
日本国内のトライアスロン競技を統括する日本トライアスロン連合(JTU)は、競技規則の中で、ウェットスーツ着用について以下のように述べています。
ウェットスーツは安全のために有効であり、着用を推奨する
基本は「推奨」ということですが、一方で、禁止/必須の着用基準というのも記載されています。
この基準は一部の大会で限定的に用いられるものであって、どの大会にも適用されるというわけではありませんが、公式な指標と捉えることができると思います。
ちなみにJTUのルールはITU(国際トライアスロン連合)のものに準拠しています。
競技規則によるエイジグループのウェットスーツ着用基準は以下のようになっています。
22℃以上→禁止 15.9℃以下→必須
スイム距離が1501m 以上の場合
24.6℃以上→禁止 15.9℃以下→必須
エリートレースはまた別の基準があり、エイジグループに比べて禁止の割合が高くなっています。
他のレースルール同様、個々の大会のローカルルールの方が優先されるので、最終的にはそれぞれの大会要項に従う形となります。
ウェットスーツ着用スイムのメリット/デメリット
では、トライアスロンのレースでウェットスーツを着るメリットとデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?
まずはさらっと整理します。
メリット
- 浮力で体が浮くのでタイムが上がる
- 保温(水温が低い場合)
- 安全
デメリット
- 価格が高い
- トランジットで着替えに時間がかかる
- 上半身が動きにくい
- 泳いでいて息苦しさを感じることがある(サイズ、着用方法の問題など)
- 水温高いと暑い
こう見るとデメリットの割合の方が大きいように見えてしまいますが、必ずしもそういうわけではありません。
とりわけ、メリットに挙げた3つの項目はどれもとても重要な意味を持っています。
それに対して、デメリットに挙げた項目は、どちらかというと克服可能なものが多いようにも見えます。
次で詳しく見ていきましょう。
ウェットスーツは着たほうが得か?それとも損か?
で、結局ウェットスーツは着たほうがいいのか否か。
先にあげたメリット/デメリットと絡めて、主要なポイントをピックアップしてみていきたいと思います。
ウェットスーツを着ることでどのくらい速くなるか?
ウェットスーツの生地は浮力が高いので、着用することで水中姿勢が改善し、スイム中の水の抵抗が低減します。
これによって通常タイムが上がりますが、その程度は平均的に、1500mで2,3分程度と言われています。
これはもともとの水中姿勢の良し悪しによりますので、上級者ほどタイムの恩恵は小さくなるはずです。
ですが自分も含めほとんどのエイジグルーパーはタイムが上がるのを実感していますので、多少の泳ぎにくさやトランジットのタイムを差し引いたとしても、タイム的なメリットはあると思います。
逆に着ると遅くなる、その理由は?
一方で逆にウェットスーツを着ることで遅くなる、という声もあります。
これは大きく分けて2つの理由があると思います。
- サイズが合っていない
- 着方が悪い
サイズが合っていないと、呼吸が苦しくなったり、腕の動きが阻害されたりして致命的な悪影響を及ぼしかねません。
特に首回りや胸の圧迫は致命的で、私も経験がありますが、思うように呼吸ができず普段の泳ぎができなくなってしまいます。
当初は合っていたのに、体形が変わって合わなくなる、ということもあるので購入するタイミングにも注意が必要です。
また、上半身に空気が入ってしまっていたり、着方が悪くて水中姿勢が悪化してしまう場合もあります。
レース時には試泳の時にしっかり空気を抜いて、泳ぎを確認するようにしましょう。
安全面でのメリット
トライアスロン大会の多くは海や湖などのオープンウォーターで行われます。
足のつかない、普段泳ぎ慣れていない場所でのことなので、当然そこにはリスクがあります。
実際にレースでの死亡事故も過去に多数あります。
あるJTUの調査結果によると次のような数字があります。
過去35年で死亡事故は37例
そのうちスイム中が31例、バイクはゼロ、ランが4例(残りはレース後やスタッフのもの)
引用元:過去35年間に国内トライアスロン関連大会で発生した死亡事例の検討 ‐ JTU
ウェットスーツを着ていれば絶対安全、というわけではもちろんありませんが、何もしなくても浮力で浮いていられるので安全性では確実に有利です。
またウェットスーツの保温力も安全性につながります。
普通なら沖縄でもない限り海水浴なんか絶対しない日本の5月や10月にもトライアスロン大会があるのは、それだけウェットスーツの保温力が高いということを物語っています。
水温が低いところで泳ぐと低体温で呼吸が苦しくなることがあり危険です。
水温が低いレースでは着用が義務化されることがほとんどですが、胴体だけでなく腕や脚もおおうフルスーツを着用するなどの配慮も、場合によっては必要です。
価格が高くて躊躇、どうしたらいい?
ウェットスーツは決して安いものではありません。
トライアスロンのレースに出場するのにもっともコストがかかるのは自転車ですが、ウェットスーツもベスト5に入るくらい値の張る買い物かもしれません。
既製品であってもまともなものは安くても3万円、オーダーメイドなら当然それ以上がかかります。
ただうれしいことに、トライアスロン用ウェットスーツのレンタルをやっているショップも複数あります。
私も一度だけ利用したことがありますが、送り返す時の送料を含めても6000円程度で済み、とても便利でした。
特にこんな方にはレンタルがおすすめです。
- 初めてのレース出場
- レース出場が年に1回以下
- どれを買っていいか分からないのでまずは試してみたい
以前私が利用させていただいたのは、日本トライアスロン会のレジェンド、宮塚英也さんのお店「ハイディア(HIDEAR)」です。
対応もしっかりしていて、いただいたメールの送信者の名前が「宮塚英也」となっていたのは少し感激しました。
ウェットスーツ着用の是非、結論は?
結論は、JTUさんのおっしゃる通り、基本的には着用を強く推奨します。
理由は前述のメリットである、安全性と保温力、タイム向上への寄与です。
慣れないと脱ぐのも着るのも大変ですし、やはり腕の回しにくかったりと、煩わしさもウェットスーツにはつきものです。
ただ、ここで挙げたメリットには収まらないところで、「トライアスロンのスイムと言ったらウェットスーツ姿」という、競技の醍醐味的な側面もあります。
水面を前に、黒光りするスーツに身を包んだ屈強なアスリートたちがスタートを待つ姿は、まさにこれぞトライアスロンという絵ですね。
以上、レースでのウェットスーツ着用についてでした。