前編からの続き。
KUOTA Kaliburからの乗り換えとなる、トライアスロンするためのロードバイク購入までの考察と苦悩の物語。
19年目のバイク選びはいよいよ佳境
ピナレロやラピエールのエンデュランスは魅力的だったが、手が届かないか、あるいは手に入らないかだった。現実的な線としてはキャニオンやブリジストンが有力だったが、どちらも決め手に欠けた。
その辺りの情報収集はもっぱら雑誌とインターネット行っていたが、自宅周辺の(というか隣接市くらいまでの)自転車屋さんでのリサーチも行っていた。なかなかこれといったものが見つからない中、ある自転車屋さんから電話でWilier(ウィリエール)とColnago(コルナゴ)のエンデュランスロードを勧められたので、見に行ってみることにした。
紹介されたのはColnagoのV3と、WilierのGarda(ガルダ)いうモデル。
V3の方はエンデュランスモデルと言ってもそれほどエンデュランスしているわけではなく、オールラウンドに近いフレーム形状に見える。カラーリングが特徴的というか、ちょっと癖のある感じ。シートポストが専用品でカーボン製だったり、ハンドルバーもエアロ形状のものがデフォルトだったりと、ミドルグレードの中では質の高い部類と言えそうだ。
Gardaはいかにもエンデュランスというジオメトリで、お世辞にもレーシングタイプという感じではない。ファーストインプレッションではいまいちぱっとしないが、価格面でキャンペーン中ということもあり、腰にやさしいバイクを求めている私としては選択肢の1つに加えてもいいかなというところ。
お店に在庫していたBianchiのARIAというバイクが激安にプライスダウンしていたので一瞬心を奪われかけたが、こちらはエンデュランスタイプではないので除外することにした。
とここで、もう一つの難問が降りかかる。
Di2完成車という存在である。
アルテグラのDi2までしかなかった頃は雲の上の話だと思っていたが、105Di2が出てからはもしかするといずれこの波が自分にまで押し寄せてくるのではと思ってはいた。どうやら今がその時らしかった。
昨今気づけばどのメーカでも105機械式と105Di2、両方の完成車を用意しているようだ。その価格差はおよそ10万円程度と小さくないが、タイミングによってはディスカウントでその差が縮まっていることもある様子。
しかしこれまで機械式しか経験していないサイクリストにとってDi2は常に、「そもそもディレイラーが電動っで何がいいん?」という根本的な疑義の的であることは否めない。
走行スピードそのものにはまず直接影響しない。変速時にレバーを回すかボタンを押すかという指先の動作の違いだけで、さほど恩恵があるようには思えない。むしろ電気を使えばそれだけトラブルのリスクは増えそうだ。電動コンポが登場してしばらく経つとはいえ、まだまだ機械式ほどは洗練されてはいないはずだ。
Di2か否か
とは言えDi2への興味は日に日に増していくことになった。インターネットや人の話を聞くとメリットとデメリットには以下のようなものがあった。
メリット
- ワイヤーを使わないので経時的な変化がなく、基本的には変速機の調整は最初に行うだけでよい(メンテナンスフリー)
- フロントの位置が多段階かつリアに連動して動けるので、チェーンとの音鳴りがない
- シンクロモード/セミシンクロモードというものがあり、フロントのインナーとアウターを切り替えるのに合わせてリアが動作することで、自動的に次の段に変えてくれる(段飛びしない)設定が可能
- 変速動作が楽(たかが指先の動作と言えどもされど、ということ)
- レバーからボタンになったことでブラケット部分が小さく握りやすくなった
デメリット
- 充電が手間
- 電気系が故障すると自分では手に負えない
- 値段が高い(機械式完成車にプラス10万程度)
このようにメリットとデメリットは結構はっきりしている。
メリットのメンテナンスフリーであることや音鳴りがしないことは実益として大きそうだ。動作の快適性やグリップの握りやすさなどは実際使ってみてどうかというところだが、試乗した限りでは「まあメリットとして認定するのに異論はないが、プラス10万というコストに対してどれだけ寄与できるかというとさほど大きくはないかな」と言った感想。
デメリットの充電の手間に関しては、満充電でおよそ1000km程度が目安とそれなりに長いこともあり、保管時に充電しやすい環境が作れればさほど問題ではなさそう。故障リスクに関しては有識者の意見が必要なところだが、地元の自転車屋さんに話を聞く限りではそれほど高くはなさそうだ。
あとはこれらPros/Consとコストとの天秤になる。拮抗しているとはいえ、正直これだけではまだ機械式でいいか、となりそうだ。ガラケーからスマホへの移行期に多くの人が思ったであろう、「今までこれ使ってて不自由してないんだから、高い金払って新しいものに乗り換える必要はなかろう」というコンサバ的な考えが優位に立っていた。
ただしそこにもう1つ要素を加えるならば、やはり一度は電動コンポのバイクを使ってみたい(所有してみたい)という願望だろう。前述したように、私がいつまでトライアスロンを続けられるかなど分かったものでは無いし、バイクを頻繁に買い替えるような財力もない。なので事によるとこれが最後のロードバイク購入になる可能性もあるわけで、それはつまり電動コンポを所有する最後の機会かもしれないということでもある。
さらに世の中的に、あるいは業界的に今はDi2推しの雰囲気があると見え、Di2完成車の方が機械式完成車より割引率の高いキャンペーンも散見された。プラス10万が、プラス7万や8万に変わると、少し景色は違って見えてくる。
そんなこんなでDi2に魅力を感じつつも、機械コンポが電動コンポかの命題は最後の最後まで私を悩ませることになった。
最後の2択はウィリエールと伏兵リドレー
出典:RIDLEY
バイク選びも終盤、9月いっぱいで決めようとなった最後の1週間は、候補のバイク(カラー別も含め)のプリントアウトをデスクの前の壁に並べて貼り付けて過ごした。候補から完全に排除したものは剝がしていき、最後に残ったのはWilierのGardaと、最終盤で割って入ってきたRidley(リドレー)のFENIX(フェニックス)というバイクだった。
Ridleyはベルギーの自転車メーカー。イタリアのWilierもそうだが、ヨーロピアンブランドであるところも個人的にはポイントが高い。FENIXというモデルは他の候補と同様、ミドルグレードのエンデュランスロードで、価格帯的にも105Di2で50万円弱。特徴的なのはフレーム形状で、まずトップチューブがPinarelloを思わせる緩やかな曲線を描いている。さらにトップチューブとダウンチューブにダイヤモンド形状を採用していて、直線的なシャープさと曲線美が融和し、さらにVenice Blue(ヴェニス・ブルー、他にも2色あるがこの色が断然良い)というエメラルドグリーンに似た絶妙なカラーがその洗練された形状を引き立てている。個人的に見た目ではWilierを圧倒していた。
しかしここでしっかりと初心を振り返る必要がある。
そう、私はそこそこ重度の腰痛持ちなのである。
昔からの憧れだったORBEAやCervelo、そこに途中から加わったARGON18などのエアロロードを諦め、エンデュランスロードなんぞ(と言っては申し訳ないが)に焦点を絞っているのもそのために他ならない。ここで見た目にほだされて目的を見失ってはならない。
そこでジオメトリの話が重要になってくる。
自転車でいうところのジオメトリとは、フレーム(フォークも含む)の基本的な設計情報で、各部の寸法や角度を表したもの。自転車の簡易的な2次元図面のようなものだ。これまで私は自転車のジオメトリというのを真面目に見たことがなく、部品などの仕様類は熱心に見てもジオメトリは完全に読み飛ばしていた。しかしそのバイクにまたがった時のライド姿勢はフレームのジオメトリによって基本的に決まるので、今回のように「エンデュランスさ加減」みたいなことを気にするのであれば、非常に重要な情報になってくる。
ジオメトリの数値の中で、ライド姿勢を計る上で注目すべきは「Stack(スタック)」と「Reach(リーチ」だ。
【スタック】
ボトムブラケットシェルからヘッドチューブトップまでの高さ差のこと。サドルにまたがった時のハンドルの「高さ」を司る。
【リーチ】
ボトムブラケットシェルからヘッドチューブトップまでの水平方向距離のこと。サドルにまたがった時のハンドルの「遠さ」を司る。
WilierのGardaの場合、私のサイズはSで、その場合スタックが531mm、リーチが378mmとなる。
RIDLEYのFENIXの場合、私のサイズはXSで、その場合スタックが517mm、リーチが377mmとなる。
リーチはほぼ同じなので、ハンドルの「遠さ」にはほとんど違いはないが、スタックの表すハンドルの「高さ」は14mmほどGardaの方が高いということである。ハンドルが遠く、低いほどライド姿勢は前傾になり、近く、高いほど姿勢は起きて楽になる。エンデュランス具合で言えば、Gardaの方がよりエンデュランスらしいということになる。
このスタックとリーチという固定値以外にも、ステム下のスペーサで高さを調節したり、ステム長の異なるステムに交換することでハンドルまでの距離を変えることもバイクによっては可能だ。その辺りの自由度もWilierの方が若干高かったように思う。
19年ぶりにロードバイクを買った日
9月最後の休みの日、自宅から車で30分ほどの自転車屋さんでWilierのGarda(色はマットブラック)を購入した。RIDLEYとの間で前日まで決めかね、最終的には購入当日の自転車屋さんで決めればいいと言うつもりで向かった。
意思決定にかかわるいくつかの要素にそれぞれ重みを付け、WilierとRIDLEYに得点を与えていき、その合計得点を比較するという私がよく行う手法によると、ややWilierが有利と出ていた。それでも最終的には迷っていた中で、最後の一押し(二押しか)になったのは、
- 実際にRIDLEY FENIXに跨ってみたところ、上から見るトップチューブがやけに幅広で、少し幻滅してしまった
- 迷う私の背中を押すために、店長がホイールをデフォルトのものからアップグレードしてくれた
という辺りだったかもしれない。
Gardaについてはもう一つ別の記事も書いてみた。
ウィリエールのエンデュランスロード「ガルダ」でトライアスロンしよう | triathlista
この別記事にも書いたism(アイエスエム)のサドルを購入時に取り付け、TIME(タイム)のペダルでもう一つ個性を加え、購入後にはプロファイルデザインのSONIC ERGO 26AというDHバーも取り付けた。さらに押し入れに眠っていたプロファイルデザインのシートポストに取り付けるタイプのデュアルボトルケージ、これも取り付けてみた。
しっかりエンデュランスなGardaではあるものの、トライアスロン的要素となるアイテムをいくつか取り付けることでなんとなくトライアスロンっぽくはなってきた気もする。あとは腰をケアしながらGardaを乗り込んで、来年のレース出場に備えるだけだ。
ガルダ購入からの走行距離はまだ500km程度だが、今のところ相性は問題なさそうだ。今までは10kmすぎると時々腰を伸ばさないといけなかったのが、30~40kmはその必要がないくらいの違いがあった。DHポジションを取るとやや前傾がきついので、DHバーの高さを変えるスペーサ(プロファイルデザインのDHバー用ライザーキット)を取り付ける予定だ(入荷待ち)。
さて、19年目のトライアスロンバイク選びと題して選考過程を綴ってきたが、これでおしまい。自転車ひとつ買うのに大げさな記事だという自覚はあるが、地味に数年かけて考えてきた購入計画なのでなんとなく個人的な記録としても残しておきたかったのだ。
それにしても改めて19年ぶりというのは長すぎた気がする。次があるとしたら、せめて10年くらいで買い替えることができればなと思う。
それに備えてまずは今から貯金かな。