トライアスロンのレース中の事故で人が亡くなった、というニュースをご覧になったことはありますか?
スポーツの競技中に人が亡くなるというのは非常にショッキングな出来事ですが、様々な競技で起こりえることです。
もちろんトライアスロンも例外ではありません。
ではその危険度はどの程度なのでしょうか?
果たしてトライアスロンは危険なスポーツだと言えるのでしょうか?
ここで2つの記事に分けて、トライアスロンにおける過去の死亡事故とその傾向、私の個人的な経験なども踏まえ、トライアスロンのリスクと危険性について触れたいと思います。
その①ではまず、死亡事故に関しての国内・国外の調査結果をもとに考えていきたいと思います。
誰にでもできる≠簡単で安全なスポーツ、であること
「トライアスロンは誰にでもできるスポーツ」
「人気は上昇中で競技人口も右肩上がり」
「魅力もメリットもたくさん、みんなでトライアスロンやりましょう」
的な感じでトライアスロンの魅力を語り、ポジティブな記事を書くのは難しいことではありません。
どれも本当の事であり、私自身、親しい人にもトライアスロンを勧めたいという気持ちも実際に持っているからです。
しかしその一方で、トライアスロンは紛れもなく過酷なスポーツでもあります。
レースともなれば肉体と酷使し、筋肉を痛めつけ、エネルギーを絞り出します。
それだけでなく、海や湖といったオープンウォーターを泳ぎ、バイクコースの下り坂ではスピードの危険性にさらされ、ゴール間近ではエネルギーが枯渇し、身体に思いもよらぬ異常をきたすこともあります。
「誰にでもできる」は決して、この競技の容易性や安全性を謳う文句ではありません。
このサイトでは、トライアスロンについてのポジティブな面を扱っていく以上、死亡事故が多いことなど、負の側面についても触れる必要があると思っています。
トライアスロンが過酷な競技であっても、危険と呼ばれる競技であって欲しくはないと思います。
そうしていくためには、JTUなどの組織や、大会運営者ももちろんですが、何より競技者一人一人の理解、モラル、理性が必要なのは言うまでもありません。
トライアスロンの死亡事故はスイムがほとんど(JTUフォーラム資料より)
JTU(日本トライアスロン連合)では、過去35年間に国内で発生したトライアスロン大会中の死亡事故についての調査検討結果を公表しています。
過去35年間に国内トライアスロン関連大会で発生した死亡事例の検討 ‐ JTU (外部サイト)
まとめによると、
過去35年で死亡事故は37例
そのうちスイム中が31例、バイクはゼロ、ランが4例(残りはレース後やスタッフのもの)
初出場は6例に留まり、経験者の事故の方が多い
年齢は45‐49歳が多く、9割以上が男性である
競技の距離はロング、ミドル、ショートともに分布していて、一定の傾向はない
ということです。
まず何より、スイム(オープンウォーター)がやはり多いのは分かりますが、37件中31件というのは特筆すべき数字かと思います。
多くの事例で、ライフセーバーが何らかの異常に気付き声をかけたのに対して、「大丈夫」という趣旨の返答をしていたという記録があります。
大会に出場しているわけですから、参加者は誰もそれなりの練習を積んできているはずです。
その距離泳ぐだけの自信もあり、だからこその「大丈夫」という言葉なのだと思います。
そこにスイム事故の根深さがあるように思えます。
バイクがゼロというのは意外といえば意外ですが、あくまで国内の死亡事故という括りであって、バイクでの事故がないというわけではもちろんありません。
年齢や性別についての傾向は、その年代、そして男性の参加者がそもそも多いから、というのが理由の一つではあります。
ただ資料によると、45-49歳の死亡事故が最も多いのに対して、(参考例として取り上げた)石垣島トライアスロン出場者の年齢分布のピークには多少のずれがあるそうです。
つまり、45-49歳の大会出場者が一般的に多いから、単純に死亡事故も多い、というだけではないということです。
少し飛躍しますが、45ー49歳という年代が、体力の衰えと自己の能力分析のずれが大きくなる年代だと言えるのかもしれません。
海外メディアの報告(ロイター)
2017年のロイターの記事においても類似した調査結果が報告されています。
Triathlon deaths not rare, and risks rise with age (英語)
調査対象は1985年~2016年の約30年間、死亡または心肺停止は135人(救命措置による蘇生も含む)ということです。
また、平均年齢は47歳、85%が男性ということで、JTUの調査結果と類似しています。
競技別では、
- スイム:90件
- バイク:7件
- ラン:15件
- レース後:9件
となっています。
バイクの割合が増えているものの、スイムの割合が圧倒的に多い点も国内の調査と共通しています。
このアメリカの調査は、JTUの調査結果の確からしさをサポートするものでもあり、同時にトライアスロンの危険性を裏付けるものでもあります。
この記事では加えて、調査結果によるとトライアスロンでの死亡または心停止の割合は、マラソンランナーにおけるそれの倍にあたる、と言っています。
海外でも同様に危険性は認知され、競技者に対しては日常的な健康状態のチェックが啓蒙されているのです。
その②では、スイム、バイク、ランそれぞれの事故原因や要因を、私個人の経験なども踏まえて紹介していきたいと思います。