2022年ワールドトライアスロンチャンピオンシップシリーズの第2戦。
イギリスはリーズで2日間にわたって行われたレースを現地で観戦することができたので、その熱戦の模様をレビューさせていただく。
第二弾は6月12日に行われたミックスリレーの部。
※第一弾の個人男子/女子はこちらから
ワールドトライアスロン リーズ大会(WTCS in LEEDS)観戦レビューその1【個人男子/女子】 | triathlista
WTCSリーズ大会のミックスリレーはいつもと違うフォーマットで
さてこのミックスリレーも、パリ五輪のミックスリレーのクオリフィケーションとしてカウントされる最初のレースとなる。
しかも今回はこれまでのミックスリレーと異なり男子からスタートして女子で終わる。東京オリンピックなどでは女子→男子→女子→男子だったのが、今回のリーズでは男子→女子→男子→女子というわけである。
会場には早めに来たのでスタンドの最前列に陣取ることができた。
スタンドの目の前にはフィニッシュゾーンがあり、その向こうにトランジションエリアが見える。前日の個人のレースではそれぞれ55選手分の個人のバイクラックが並んでいたわけだが、今日のミックスリレーでは20の国ごとにスペースが与えられている。各チーム4人なので20×4で80台のバイクが並ぶことになる。
日本チームに与えられていたスタートナンバーは「19」。20チームだが途中番号が1つ抜けていたので21番まであり、後ろから数えて3番目に位置している。1桁台の強豪国に果たして食い込んでいくことができるか、楽しみである。
日本選手たちも準備を始めていた。メンバーは男子がニナーと北条、女子が高橋と中山。ニナー選手がウェットを着始めたので、おそらく彼がスタートなのだろうと分かる。個人レースでも上位を争っていた序盤の強さで勢いをつけたいというところか。
会場のMCが準備を終えた選手たちにインタビューをしていたが、その中にオランダチームがあった。ミックスリレー史上初めて(というほど歴史が長くないが)、夫婦で同じチームとなった選手たちを紹介していた。
男子のリチャード・マレー、女子のレイチェル・クラマーだ。マレーはリオ五輪の銅メダリストであり南アフリカのレジェンドトライアスリートだが、結婚してオランダ国籍を得たようだ。2022年シリーズからオランダ代表としてレースに出場することにしたということだが、将来的にコーチをしたいという思いもあってオランダを選択したらしい。母国の英雄を失う南アフリカとしてはあまり歓迎できない選択だったのではと想像してしまうが、まあ選手個人の選択なので仕方がないのだろう。
人知れず始まったスイム、ハンドオーバーが見られないスタンド席
個人レースと違い、ミックスリレーではトランジションエリアで国ごとの選手入場行進のようなものが行われた。各国の国旗を掲げた子供たちに続いて選手たちがハニカミ顔で歩いていく。ミックスリレーならではのリラックスした表情が見られる。上の写真は(小さくてよく見えないが)日本チームの入場の模様。
このトランジションエリアや、フィニッシュゾーンはスタンド席の目の前に設けられていて、無料観戦の観客からは観えないようになっている。スタンド席のチケットは20ポンド(約3千円強)。これを高いとみるか否かである。
スタンド席にいると逆にスイムスタートを観ることはできない。イベントとしてのトライアスロンにおいてスタートというのも1つのポイントではあるはずなのだが、「観るスポーツ」としてのスタートには競技性があまりない(スタートで何かが決まるわけではないし、そもそもスイム自体誰がどこを泳いでいるのかよく分からない)ということでそういう扱いなのかしれない。
スタンド席ではスイムスタートのアナウンスもなく、スタンド席に併設されている大型ディスプレイにその模様は映っていたものの、多くの観客が気づかないうちにレースはスタートを切っていた。
スタンド席からトランジションエリアを挟んで向かいのVIP席にはアレックス・イーの姿もあったが(おそらく前日のバイククラッシュが無ければリレーに出場していた)、彼も談笑していてスイムのライブ映像はほとんど観ていないようだった。
1番手のレースはやはりヨーロッパの強豪国が先頭集団を作る展開。その中で日本チームのニナーはスイムを好順位でアップし、バイクでも先頭集団を維持、ランも10位前後で推移して食い下がった。さすがだ。
2番手の高橋にはトップから23秒差の14位でつないだ。4位のオランダはマレーから奥さんのレイチェル・クラマーへのハンドオーバー(選手間のバトンタッチ)だ。
スタンドに座りながらずっとハンドオーバーをどこでやるのだろうと気になっていたのだが、ラン最終回を走った選手たちはスタンド席の前を通り過ぎてスイムコースへ向かう小道へ抜けていった。ハンドオーバーはミックスリレー特有の見どころであり、エンターテインメントとして重要なパートなのでそれが有料席のエリアで行われないというのは残念だった。隣に座っていたロンドン在住の女性(昨日のアマチュアレースに参加していたそう)もそれにはとても残念がっていた。
高橋を追いかけるスパイビー、北条を追いかけるワイルド
上の写真は日本の3番手である北条選手のT1。北条と言えばこのグリーンヘアだ。
トライアスロンライブで観ていても本当によく目立つ。北条選手を知らない外国人がトライアスロンライブを観ていても、なんだか緑の髪の日本人がいつも序盤にがんばってるな、と印象に残るのではないだろうか。今回のリーズ大会の放送では解説の男性が少なくとも3回はこの北条の髪色について触れていた。
話を2番手に戻すが、高橋のスイムアップは14位で22秒。まだくらいついているが、集団からは少し離れてしまった印象だ。風が強いので単独走行になると厳しそうだ。
ところがちょっと後ろになぜかスパイビーがいる。どうも強豪の一角であるアメリカが元気ない。せっかく昨日も素晴らしいレースを見せていたスパイビーが近くにいるのだから、どうにか彼女に食らいついていってくれればと思わずにいられない。
と、結局スパイビーには離されてしまったが3番手の北条にバトンタッチ。その北条がスイムアップすると今度は前日優勝したワイルドが後ろにいる。これが個人レースと違う、ミックスリレーの面白いところでもある。
イギリスやフランスのように穴のないチームだとこうはいかないが、選手が入れ替わるミックスリレーでは、常にリードグループを維持できるチームはごく一握りなのだ。あるいはフローラ・ダフィのように自国に世界レベルの選手が揃わなければ出場することもできない。出場できる国でも、全員がトップ10レベルというわけにはなかなかいかないので、スパイビーやワイルドのような選手が下位の方から追い上げていく姿が見られるのである。
今日も後方から捲りまくるテイラーブラウンと逃げるジャーマン
さてレースの行方はというと、最終の4番手へ渡った時点でリードグループはドイツとベルギー、そして少しだけ離れてフランスだ。テイラーブラウンを要するイギリスは45秒差の8位。スイムアップしてもその45秒差は変わらず。ドイツ、ベルギー、フランスの三つ巴でメダルの色を争う展開かと思われた。
ところが、バイク1周目を終えるとテイラーブラウンとトップとの差は26秒差に、T2ではそれが8秒になっているではないか。例によって会場のボルテージは最高潮となる。
しかし結局、リードグループの3チームのうちテイラーブラウンがかわすことができたのはベルギーとフランスだけだった。ドイツのリンダーマンとの差はむしろランでちょっと開いてフィニッシュしていた。地元のイギリスが金メダルを獲得することは、個人に続いてリレーでも叶わなかった。
ベストな布陣で臨み穴のなかったドイツチームが総合力で優勝した形だ。しかしやっぱり国力としてはイギリスチームがある意味抜きんでているとも見える。主力のアレックス・イーとジョニー・ブラウンリーを欠いてのシルバーであり、女子はほかにも今回出場していないリアマンスもいるし、ポッターもトップオブトップのレベルにある。今回やはり主力との差を感じた男子勢があと少し充実したら本当に死角がないのではないかと思う。
期待通り楽しめた2022WTCSリーズ大会
2日間とも6月としては肌寒く、風も強い天候だった。この低い水温、風、アップダウンが多いバイク・ランコースはやはり日本人としてはきついだろうなあと素人ながらに思う。
しかしそれはさておいても、ミックスリレーを観るとやはり国と国との差を如実に感じてしまう。あと数年で日本がWTCSやオリンピックのミックスリレーで表彰台に上がれる可能性があるかというと、やはりちょっと想像ができない。仮に突出した選手が一人出てきたとしてもそれで勝てるようなものでは無いからだ。サッカー日本代表がワールドカップのトーナメントを勝てないのと同じようなことなのかもしれない。
全体的に観客にフレンドリーでとてもいい大会なのだけど、有料スタンドについてはあと一歩かなと思った。おそらく公園の地形とコースの兼ね合いですべてを叶えることができないのだろうけど、選手の入場やハンドオーバーが見られず、スイムもまったく見えず、ディスプレイも正面ではなく横にあるので観にくいという点は少し残念だった。
ただやっぱりスポーツはライブが一番だ。
会場で観ていると途中経過がどうなっているのかよく分からなかったり、誰がリタイアしたとかペナルティが発生したとかの情報も遅くて、トライアスロンライブで観てる方がよっぽどレース自体はよく分かる。それでも理屈ではなくやっぱりスポーツはライブだなと、会場に来てライブを観るたびに思う。できることなら来年も足を運びたいものだ。