東京オリンピックへ向けたテストイベントでもある、トライアスロンのOQE(オリンピッククオリフィケーションイベント)が、2019年8月15日から18日の日程で開催されました。
オリンピックと同じ時期、同じコースで行われ、しかも世界ランキング上位の選手が一堂に会するレースは、まさにオリンピックの前哨戦と呼ぶにふさわしいものになりました。
当初台風の影響が懸念されていたものの、無事初日に行われたエリート女子のレースをしっかり観戦してきました。
ITUのレギュレーションでランが5kmに短縮されたり、1位2位でフィニッシュしたイギリス2選手の失格や、ザフィアエス選手のバイククラッシュなどいろいろあったレースではありましたが、現地で観たもの、感じたこと、思ったことなどをこの記事にまとめたいと思います。
オリンピック本番を占うレース展開や、観戦を楽しむポイントなど、オリンピック観戦に向けた参考情報も、たっぷりと得ることができました。
OQE(オリンピッククオリフィケーションイベント)とは?
「クオリフィケーション」とは、オリンピックなどの大会における「出場資格を得ること」です。
つまりOQEにはまず、選手がこの大会で結果を残すことで、オリンピックに出場する各国の代表権を得るためのレースという目的があります。
全体で上位に入るという条件のほかにも、各国それぞれで異なるクオリフィケーションの条件を設けているので、順位がどうだったからどの選手が出場資格を得たかというのは、外部からは分かりません。
もう一つ、OQEにはオリンピックに向けてのテストイベントという側面もあります。
オリンピックと同じ時期、同じコースに大会を行うことで、コースや運営の課題を抽出するというのが大きな目的になっています。
OQEと本番とで運営がどう違うのか、またはどんな問題点が見つかってどんな修正をかけるのかはまだ分かりませんが、水質の問題や暑さをどう克服するかなど、本番へ向けての良いシミュレーションには間違いなくなっていたと思います。
水質やにおいが話題になっているスイム
当初オリンピック公式ページでは1km+0.5kmとなっていましたが、今回0.75km×2周回になっていました。水質改善対策の影響かもしれません。
その水質については、3日目のパラトライアスロンは基準値越えのためにスイムが1stランに変更となりました。
天候などによってこうした変更があるのもトライアスロンですが、水質の問題はまだオリンピックまで時間があるので、しっかりと対策していただきたいものですね。
エリート女子のスイムでは水温30度越えとか。室内プール以上ですね。
そんな環境の中、レースはイギリスのリアマンスが最初から飛ばし1周目からトップを保持し、2周目に入るとさらに独泳状態になると、10秒差をつけてのスイムアップ。
日本人の3選手はスイムは得意としていますが、少し先頭からは差をつけられてのスイムアップとなっていました。
アクシデントもあったテクニカルなコースのバイク
お台場のバイクコースはかなりテクニカルなコースではないでしょうか。
何といっても目を引くのはコーナーの多さです。
鋭角のコーナーが多く、直線が少なくて抜きどころがなさそうに見えます。
加減速が多いので脚力が求められるのもさることながら、コーナリングのテクニックがとても重要となりそうです。
ちょっと気になったのがコースの路面についてです。
トランジッションエリアなど、会場付近のコースの路面は設営された青い床になっています。
こうした世界大会などでよく見るやつですね。
これが結構長く、おそらく1周回につき1kmくらいつづきます。
濡れて滑らないかなと心配になりますが、触ってみるとざらざらしていて、かなりグリップが効きそうでした。当たり前ですね。
一方、南側のプロムナード周辺のコースはしばらくタイルが続きます。
ヨーロッパの石畳のような走りにくさは無いはずですが、コーナーが多いだけにやっぱり濡れたら滑らないかなと心配になってしまいます。
さてそんなバイクパートは、トップのリアマンスとそれを追うザフィアエスという構図から始まったものの、2人ともすぐにダフィ率いる集団に飲み込まれます。
その直後、ザフィアエスが他のアメリカ人選手も巻き込んでクラッシュ。
後のインスタグラムによると、走行中に後ろを振り返った直後に障害物と衝突してしまったとのこと。
口の中を23針も縫う怪我を負ってDNFとなってしまいましたが、大事には至らなかったようで幸いでした。
その後トップ集団は6人で形成され、第2、第3集団はそれぞれ10数人と言ったところ。
日本人の3選手は第3集団に入っていたと思いますが、周回を追うごとに徐々に集団間の距離が開いていっていたようでした。
半分の5kmに短縮となったラン
ランはITUのレギュレーションにより距離が短縮となり、2.5km×2周回の5kmに変更されました。これもトライアスロンならではですね。
記録(タイム)を重視する競技だとなかなかこうはいきませんが、トライアスロンは基本的にタイムを競うものではなく順位を競う競技なので、距離の短縮がその競技性に著しい影響を与えない、と捉えることができます。
さらにITUによると、オリンピック本番でも距離の変更はあり得るとのこと。
アスリートファーストの理念からすると致し方ないでしょう。
また開始時間を早めることも検討するそうですが、そうなると観戦する側としてもかなり早朝の移動となってしまいますね。
一方レース展開的には、ランが短縮となると、後方からランで(しかも炎天下のランで)巻き返すのはかなり厳しいでしょう。
エリート女子のレース日も、曇天でのスイムスタートから1時間以上たって、ランに移るころには日も出てかなりの高温になっていました。
そんな中、バイクで形成された6人の先頭集団がランに移って、抜け出したのはイギリスのリアマンスとテイラーブラウンでした。
この2選手はそのままフィニッシュラインまで2人でトップを維持したわけですが、ここでまた1つの事件が起こってしまいます。
この2選手、お互い切磋琢磨してここまで辿り着いたのだと思いますが、それを称えあうように、フィニッシュ十数メートル前から手をつなぎ、横並びでゴールしたのです。
上の写真はまさに手をつなぐところですかね。
結果は写真判定となったものの、モニターに映し出された写真を見ても全くの同時フィニッシュです。
2選手が手をつないでのゴールは微笑ましく、観客からは盛大な拍手が送られていたのですが、これが「意図的に一緒にフィニッシュすることは禁止」というITUのルールに引っかかってしまったのです。
結果、3番目にフィニッシュしたバミューダのダフィが繰り上げ1位に。
何とも微妙な結末でした。
日本人選手の結果は?
高橋侑子選手は23位、井出樹里が25位、佐藤優香選手はランの途中でリタイアしDNFという結果でした。
世界ランキング10位に入るような選手との差を、ちょっと見せつけられたような結果だったかもしれません。
日本人選手が上位を狙うなら、得意のスイムで上位について、何とか可能な限りバイクで先頭集団に食らいつくというシナリオしかないような気がします。
レース後に涙ぐんでいた佐藤選手の悔しそうな顔が印象的でした。
まだあと1年あるので、ランキングにもどのような変動があるのか要注目です。
東京オリンピックテストイベント観戦を終えて
イギリス人2選手もさることながら、繰り上げ1位となったダフィ選手の強さが際立っていたように思います。
彼女は怪我の影響でレース出場が1年ぶりという状況で、そのためレースナンバーは、本来の実力なら当然1桁であるべきところ、「55」でした。
レース後のインタビューでは、「こんな風に戻ってこれるとは思っていなかった。今回のレース結果はベストケースシナリオだった」と語っていました。
繰り上げ2位なったイタリアのベット選手は、「とにかく暑すぎて、毎周回、その1周の事だけを考えてそれを繰り返した。暑さのことを考えたらフィニッシュできない」と言っていました。
「暑さ」と「水質」という2大問題を突き付けられている東京2020のトライアスロンですが、大盛り上がりしてトライアスロンの認知度を上げることは間違いないと思っています。
お台場で行われる世界一のトライアスロンレースを、ぜひとも生で楽しみましょう。
現地観戦の注目ポイントを別記事にまとめたので、チケットがある人も、ない人も、よろしければ合わせて読んでみてください。
東京オリンピックのトライアスロン競技概要はこちら。