【狭心症とトライアスロン③】ステント留置後の生活とトレーニング、そしてまさかの?

 

このコラムでは、40代半ばにして狭心症を患ってしまった経験から、狭心症治療とその後の生活やトレーニングなどについて「狭心症とトライアスロン」をテーマにシリーズで、かつ進行形の状態で綴っていく。

今回はシリーズ3回目、ステント留置術を終えてからの生活やトレーニング、そしてまさかの再発の疑いについて。

シリーズ1回目のコラムはこちら

 

 

狭心症患者としての生活

ステントを入れる手術をした後で医師に言われたように、治療がうまくいってしまえばその後は普通の人と同じように生活をして構わないわけではある。普通に生活して運動だって今まで通りやっていいし、飲酒だって特別気にすることはない(飲みすぎが良くないのは前提として)ということだ。

ただしこれまでの生活と変わる部分もある。薬の服用と食生活である。

 

薬に関しては、コレステロールを下げる薬と、血液をサラサラにする薬を毎日飲むことになった。コレステロールに関しては、通常悪玉(LDL)コレステロールの基準値は140未満(140以上だと高すぎ)だが、医師によれば脂質異常から狭心症を発症してしまうような人は100以下、できれば70くらいを目標にしたいということだった。

私のように体質的にLDLコレステロールが高くなってしまう人間は、食べるものを制限しても運動してもなかなか思うようには下がらない。個人的にはどう頑張っても通常の基準値(<140)に収まるかどうかというところだ。なのでそこから先は薬に頼らざるを得ない。薬を飲み始めて最初の血液検査におけるLDLコレステロール値は96と、今までに見たことのない低い数値だった。医師もこの値は特に注視しているようだったので、薬も併用しながらもう少し下げる努力を続けていくしかない。

 

血液をサラサラにする薬の方は2種類を毎日飲むことになった。詳しいことは分からないが、医師曰く2種類飲むのが最近は主流になっているということだ。

これらの薬は血が固まりにくくして血栓ができるのを予防する類の薬だが、裏を返すと怪我をして流血しても血が固まりにくく(止まりにくく)なるということである。実際これらの薬を飲み始めてから小さな切り傷ができた時には、なかなか血が固まらずカサブタになりにくいというのを実感した。

医師によると特に大けがをした時の出血で通常よりもリスクが高く、また大掛かりな外科手術も行いにくい(二の足を踏む病院もある)ということだった。そういう話を聞くとできるだけリスクを取らないようにというマインドが芽生え、料理で包丁を握るときなんかも今までよりも慎重になったりもする。こういう細かいところも狭心症患者あるあるなのかもしれない。

 

生活でもう1つの変化、というか変えるべきなのが食生活である。

「心臓病」や「動脈硬化」などで検索すれば食生活改善を謳った本が山ほど出てくる。それだけこの辺りの疾患には食生活が大きく関係しているということだ。

なのでこうした情報は世の中に十分出回っているし、もっと詳しくて正確な情報源がたくさんあるわけではあるが、ここでは自分の中での整理の意味も込めて基本のキをまとめておきたい。

 

 

狭心症再発を防ぐための食生活の基本

狭心症などの虚血性心疾患の主な原因は動脈硬化であり、その要因には脂質異常症や高血圧がある。これらは運動などの生活習慣にも関係するが、食生活に依存する部分ももちろん大きい。

 

脂肪・コレステロールをコントロールする

日本動脈硬化学会のガイドラインによると、コレステロールと中性脂肪の基準値は以下のようになっている。

  • LDLコレステロール:140未満
  • HDLコレステロール:40以上
  • 中性脂肪:150未満

つまりLDL(悪玉)コレステロールと中性脂肪はある程度より低く抑える必要があり、HDL(善玉)コレステロールはある程度以上高く保っておく必要があるということだ。傷ついた血管にコレステロールが入ってできたプラークが血管を狭くする原因になるわけだが、LDLは肝臓から各血管にコレステロールを運ぶので悪玉、HDLは各血管からコレステロールを回収する働きをするので善玉と呼ばれる。

脂肪とコレステロールの摂取を減らすポイントは以下のとおり。

  1. 脂質は全体の20~25%
    • そもそも脂肪分を摂りすぎないように、揚げ物などの油料理は控えめにする
  2. 肉を減らし魚を増やす(油の種類のコントロール)
    • 肉の脂肪(飽和脂肪酸)はコレステロールを増やし、魚の脂肪(不飽和脂肪酸)はコレステロールを下げる
    • 不飽和脂肪酸の中でも、サラダ油などのn-6系脂肪酸は酸化されやすく動脈硬化を進行させるので控えめにする
    • 一方で魚の脂肪や亜麻仁油、エゴマ油などのn-3系脂肪酸は中性脂肪を減らし、HDLコレステロールを増やす働きがあるので積極的に摂る
  3. コレステロールの多い食品を避ける
    • 魚卵や鶏卵、霜降り牛肉やベーコン・レバーなどの肉類、ウナギ、貝やえび・いかなどの魚介類、バターやチーズ・生クリームなどの乳製品がコレステロールを特に多く含む

 

塩分を減らす

脂質異常症の改善とともに、血圧(もし高ければ)を下げることも大切。血圧が高いと血管の内壁が損傷しやすく、動脈硬化の原因の1つとなるのだそう。

高血圧の原因の一つがナトリウム(塩分)の過多である。減塩の目安としては、1日の食塩摂取量を6g以下に抑えることという指針がある。これに対して日本人平均は10gだというので、6g以下にするのは結構大変そうだ。

塩分などを気にしだすと、食品パッケージの裏に書いてある成分表示をよく読むようになる。ある食品の1回分の摂取量が0.6gであれば、それだけで1日の10分の1ということになる。例えばそれがスナック菓子だったりすると、「ちょっと食べるだけで1日の10分の1か」と食べるのを控えるようになったりもする。

和食は意外と塩分が高いものである。味噌汁や醤油、漬物などベーシックなところでかなり塩分が含まれている。味噌や醤油を減塩のものにするなど対策はあるが、一番は「味の薄い食に慣れる」ことがポイントだと個人的には思う。薄味に慣れてしまえば意外と食材の味で満足できるようになり、味が薄いから塩や醤油を足そうという気も起らなくなるものだ。

血圧を下げるにはそのほか、塩分を輩出させるカリウムや、カルシウム・マグネシウムなどもしっかり摂ることが大切。カリウムはほうれん草やアボカドなどの野菜、果物や海藻類、ナッツ(アーモンド、胡麻など)に多く含まれるが、水溶性なので生で食べるか煮汁ごと食べるのがいいらしい。

 

食物繊維を多くとる

食物繊維はコレステロールを輩出してくれるし、血圧を下げるのにも一役買うので動脈硬化対策としてはかなり重要なキャラクターである。

食物繊維は野菜(特にごぼうなどの根菜)や果物、雑穀ご飯、海藻類、こんにゃく、きのこ類などで幅広く摂ることができる。例えば、

  • パンをライ麦パンへ、ご飯を雑穀米へ変える
  • ブロッコリーのサラダや、キウイフルーツなどの果物を食事に付ける
  • 副菜に納豆、ひじきの煮つけ、きんぴらごぼう、かぼちゃの煮つけなどを一品追加する

のようにいつもの食事での地道な努力がものを言うはず。

 

あくまで三大栄養素はバランスよく

糖もダメ、脂肪もダメとか言われると何を食べていいのか分からなりそうだが、あくまで炭水化物、たんぱく質、脂質を一定の割合で摂るのが基本。炭水化物が60%、たんぱく質が15~20%、脂質が20~25%というバランスがいいらしい。

これらの栄養のどれを取らないようにするとかではなく、問題はどのように摂るか、である。

上にあげたように、炭水化物であれば食物繊維の多いものを取るとか、たんぱく質なら肉より魚を多くとるとか、脂質なら飽和脂肪酸を控えて不飽和脂肪酸を積極的に摂る、ということだ。

忙しい生活の中ではなかなか難しいところもある。食事の準備に時間をかけられるような余裕ある生活が送れるのであれば、ストレスも減るし食事療法的にも良く一石二鳥となる。そういうところを目指したいものである。

 

 

ステント留置術後2週間~6週間あたりのトレーニング

さて、そうして毎日薬を飲んだり食に気を使ったりしながらの生活をしてきたわけだが、トライアスロンのトレーニングも元通りに(というほどの練習量でもないのだが)できるようになってきたのがこの治療2~6週間くらいの期間だった。

時期がまだ寒い時期だったことと、引っ越しのためバイクが輸送中だったこともあり、この間はランとスイムだけの練習になった。

ランは前回書いたように2週間くらいかけて普段の練習量に戻し、その後は走る距離だけ普段通りだがペースはまだジョギングペースで心拍数は上げないように心掛けた。トレッドミルの時は最後に1分だけ心拍数を上げるようなこともしてみたが、それで特に心臓が違和感を感じることもなかった。それでも、何しろ心臓に金属を装着して間もないのである。完全に以前と同じ負荷をかけるには、もう少し時間を見るべきだろうという意識が働き、基本ジョギングペースでゆっくり走った。

スイムも冬の間ほとんど泳いでいなかったので、初回は1kmだけ、その後は週に1,2回のペースで、200mくらいずつ距離を延ばしていった。こちらもペースは上げず、リラックスしてただゆっくり泳ぐことだけを繰り返すトレーニングだった。

 

なので慎重さには、やはり問題はなかったと思う。

医師からは特に気にせず今まで通り運動をして構わないと言われていたが、実際にはそれより慎重にトレーニングしてきたはずだ。なのですべては順調に進んでいると思っていた。あの胸の痛みを再び感じるまでは。

 

 

狭心症治療から7週目、胸に違和感が…

胸にふたたび違和感を感じるようになったのは、ステント留置術から45日後、7週目のことだった。

週明けの月曜日、会社で階段を上ったりする際にどうも胸を軽く押されるような、痛みというほどでもない軽い圧迫感のようなものを感じた。それに階段の上り下り程度にしてはやけに息が上がる。なんだか嫌な感じだ。体を動かすことで症状を感じる、手術前の状態を思い起こさせた。

ほどなくのどの痛みを感じるようになり、それから悪寒など風邪症状が現れた。すぐにコロナを疑ったので、薬局でセルフ抗原検査キットを購入してテストした。しかし結果は陰性である。

急激に悪化するわけではないものの、体調がすぐれないまま数日を過ごしたところで、単身赴任先での薬の処方などの相談も兼ねてクリニックの総合医を訪ねることにした。日本での治療の経緯や現在の症状などを話したところ、医師はやはりコロナを疑いつつも心臓の専門医を紹介してくれることになった。クリニックを訪れたこの日にも再度抗原検査キットを使ってみたのだが、結果は同じく陰性だった。

その土日をおとなしく過ごして週が明けると、のどの痛みや咳などの風邪症状はほとんどなくなっていた。しかし具体の悪いことに、胸の違和感が一緒に消えてくれることはなかった。

 

となるとこれは一体どういうことなのだろう、となる。

ステント留置術は問題なく終わって経過も良好だったし、その他の冠動脈にハイリスクな個所が無いことは確認できていたはずだ。コロナでは無いにしても風邪のような一過性のものでは無かったとしたら、どうしてまた狭心症のような症状が出ているのだろう?

さらに紹介された専門医からの連絡はなかなか来ず、焦りが募ることになった。症状が出るたびに、手術時に撮影された、狭窄によってすっかりか細くなった冠動脈のX線画像が頭に浮かんだ。あの時感じていた症状は、患部が90%狭窄していた時のものだ。万が一あの時よりも悪い状況になっていたとしたら?

痛みも息切れもそれ自体は決してたいしたものでは無いのだが、症状と危険度の相関関係は誰にも分からないのである。取り返しのつかないことになっては困る。連絡は待たず、心臓の専門医を救急で受診できる病院にアポを取り、向かった。

 

そこでは心電図と血液検査、問診に加え、やはりコロナを疑ってPCR検査も行った。結果はどれも問題なしということだ。最後に医師との面談があり、そこでカテーテルによる検査をすべきだと告げられた。

この判断には今でも引っかかるのだが、医師は何度か席を外して別の専門医とも相談の上、結論としてカテーテル検査が必要だと言った。ステント留置から2か月と経っていないこと、そして現在の症状から、ステントを留置した部位に何か異常が発生していると考えられるというのだ。

それにしてもいきなりカテーテルとは時期尚早ではないか。そのようなインヴェイシブ(=侵襲的)な検査の前に造影剤を使ったCTで様子を見たいとも申し出たのだが、CTでは状態がはっきりとは分からないから(つまり医師としてはステントの部位に問題があると断定しているわけだ)あまり意味がない、CTもできるがいたずらに時間をかけることになるからと事実上却下されてしまった。

さらに、もしステント個所に問題があったらどうするのかと問うと、新たなステントを留置することになるだろうと言う。そうした処置があるのかどうか聞いたこともなかったので、これはまたにわかには承服できないことが増えてしまった格好だ。ステント留置で問題が発生したとして、その上にもう一度ステントを入れて今度は大丈夫だという保証はできるのだろうか?

あまりに引っかかるところだらけだったので、ひとまずカテーテルの予約申請だけをしたうえで、日本の医師とも相談してから決めると言い、この日の診察を終了した。

 

地下駐車場に戻るとなんだかどっと疲れが出てしまった。あまりそういった経験はないのだが、なんだか家族と話でもしないことには居られないような気持ちになって、車のシートに腰を下ろすとすぐに、深夜の日本にいる妻に電話をした。

こうして、トライアスロン生活に戻るよりも前に、心疾患とのセカンドラウンドが始まってしまったのである。

 

シリーズ「狭心症とトライアスロン」第3回目はここまで。

第4回に続く。

 

【狭心症とトライアスロン④】再発騒動と、心臓疾患を持つプロトライアスリートたちについて
狭心症治療とその後の生活やトレーニングなどについてのシリーズコラム「狭心症とトライアスロン」。第4回は再狭窄疑いを受けてのカテーテル検査とその後について、そして心臓の病を患うプロトライアスリートたちについて。ティム・オドネル、ヴィンセント・ルイス、ローラン・ヴィダル、リチャード・マレー。